<組曲>神曲
<組曲>神曲

<組曲>神曲 2009年11月26日〜2010年2月18日
サウンド・インスタレーション《組曲》神曲は、旧フランス大使館庁舎内で開催されたNo Man’s Land展において、館内の3つのエリアにまたがって展示されました。この作品は中世イタリアのあまりにも有名な叙事詩、ダンテによる「神曲」(La Divina Commedia)にインスピレーションを得て、それぞれ「天国編」「煉獄編」「地獄編」と名付けられました。

「天国編」
来場者が最初に訪れる旧大使館の中庭にあたる日本庭園では、枯山水サラウンディングの主要な作品である、音による枯山水庭園が展示されています。竜安寺の石庭などで有名な禅の作庭法である枯山水は、石や岩などで、山や海などの自然界を表現しますが、この天国編では、音のみでコズミックなイメージを表現します。ダンテは「神曲」の随所に空にまたたく星を描写しましたが、ここでは、ダンテの生きた中世の天動説の宇宙観に加えて現代宇宙論の要素が入り混じり、日常的な感覚からかけ離れた空間をお楽しみいただけます。ここに響くのは、あなたが過去に聞いた音、あるいはこれから聞く音かもしれません。この空間は一般的な時間軸では測れない空間だからです。この音響空間は特殊な音響技術や音響機器を駆使して演出されています。ぜひ庭園内を散策してみてください。円周上に配置されたスピーカーからの立体音響によって、あたかも音そのものがそこにあるかのように感じていただけるはずです。音を発するモノはそこに「ある」のでしょうか?「ない」のでしょうか?禅が教えるように心の眼で見てください。

「煉獄編」
本館101号室では、「神曲」において、贖罪の場である煉獄がイメージされています。天国でもなく地獄でもなく、かといってこの現世と切り離された空間では、来場者は自分自身との対話を余儀なくされます。この作品ではダンテが重要視したキリスト教の根幹である三位一体を重要視した3という数字をモチーフにしています。 フランスの国旗でもある「赤」「白」「青」の光が「愛」「希望」「信仰」を表し、3つの「音」「光」「香」はそれぞれ、天国の門へとあなた導きます。ここでも最新の音響機器が用いられています。超音波スピーカーがあなたの意識に直接語りかけます。また、「生姜」「蓮」「竹」の三つの香が煉獄には満ち、それらはときに混合し、ときに独立してあなた固有の記憶を呼び覚まします。この煉獄では、「音」「光」「香」がどのように相互作用するかを体験する場です。できればあなた一人でこの部屋を訪れ、正面にある門と直面してください。そのとき何かが起こるかもしれません。何も起こらないかもしれません。そこであなたが体験することはあなたにだけのものとなります。

「地獄編」
本館地下の黒く塗られた扉の先には、恐ろしい地獄が待ち構えています。旧大使館地下にあるボイラー室にある、施設内の暖房を供給するためのボイラーが出す騒々しい音が、リアルタイムに集音され、田に水を引くようにここに届けられています。その音は、ありのままに放たれるわけではなく、特殊エフェクトを加えられて室内に充満しています。これらはすでに元の音とはかけ離れており、いわゆるノイズ・ミュージックの様相を呈しています。これはジョン・ケージが提唱する「あらゆる音は等価である」という思想に基づいたうえで、枯山水サラウンディングが提案する「騒音のリサイクル」というアイデアです。ダンテの描く「地獄編」にならって、9つの階層を持ち、来場者の動きにあわせて、それぞれは異なる音を放出します。穢れない者にとっては音楽に聞こえるかもしれませんが、罪深いもの達には騒音以上の責め苦を味わうことになるでしょう。くれぐれもご注意ください。