苔時
苔時


京都にある苔寺の庭園は、完成した当初から苔むしていたわけでは、もちろんない。それは数百年後に苔むすことを想定して作られたものであった。作庭した夢窓礎石も、従事した庭も、ついにその完成形を見ることはなかった。それは人の手に時間が加わって初めて成就するものであり、有限の自然とさらに卑小な人そして長大な時間とが織り成す作品である。このエピソードにヒントを得て、「苔時timoss」は作庭されている。暗闇に取り囲まれたその庭には、既知の絶対的時間は存在せず、あたかも量子論でいわれるブラックホールのように時間の尺度は伸び縮みし定量をもたないのである。

そこで聴かれる音の情景は彼がどこかで聴いたことのある音かもしれない。が、それは彼の記憶にある音の形をすでにとどめてはいないだろう。ひとたびそこを訪れた人は日常の時間から切り離され、あたかもブラックホールに飲み込まれた存在のように再び庭を出ても同じ場所に戻れるとは限らない。ファッション・ブランド”KENZO”の京都でのプレス・パーティにて初演された作品。6つのスピーカーに囲まれた空間を、さらに上下2つのスピーカーで包み込み、空間内部ではあたかもブラックホールの中にいるかのように、実際の時間の運行から切り離された伸縮性のある「苔の時」が流れるようにサウンドデザインされている。